糖尿病

糖尿病とは

糖尿病とは、ブドウ糖(血糖)を適切に細胞に取り込めなくなることで、血液中のブドウ糖濃度が高まって、高血糖状態が続く慢性疾患です。
血糖濃度が高い状態が長期間続くと、全身の血管が損傷して様々な合併症を引き起こすなど、全身の組織に多くの悪影響を与えます。
糖尿病と診断されたら、血糖値を正しくコントロールし、合併症の発症を防ぐことが、大切になります。

糖尿病に初期症状はある?

食後に強い眠気はありませんか? 糖尿病の初期症状とは糖尿病の特徴の一つが、初期症状が全く出ないということです。そのため、糖尿病が進行していても気づかないことが多く、発見や治療が遅れることが多々あります。このように、糖尿病はサイレント・キラーとも呼ばれ、自覚症状がないうちに身体を蝕んでいく危険な病気です。
糖尿病が進行すると、若年層であっても心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を発症し、寿命を約10年短くしてしまう恐れもあります。なお、糖尿病患者の平均寿命は、男性で約69歳、女性で約72歳と報告されています。


糖尿病の種類

2型糖尿病

糖尿病は主に1型糖尿病と2型糖尿病に分類され、日本では95%以上の患者様が2型糖尿病となります。

原因

2型糖尿病の主な原因は以下となります。これらが複合的に引き金となって、体内のインスリン分泌量が低下したり、インスリン抵抗性というインスリンがうまく機能しなくなる状態を引き起こします。

  • 加齢(40歳以上から2型糖尿病の発症リスクは高まります)
  • 運動不足
  • 過食・早食い・ドカ食い
  • 肥満
  • 不規則な食事時間
  • 過度なストレス
  • 遺伝的要因

症状

上記の通り、2型糖尿病は初期の段階では自覚症状がまったくないことが多く気づきづらいですが、何かの合併症が進行すると、全身に様々な症状が現れます。主な糖尿病合併症の症状は以下となります。

  • 手足の感覚の弱まる、または、手足にチクチク刺すような痛みを感じる
  • 切り傷や皮膚の傷が治りにくくなる
  • 頻尿になる
  • 感染症によくかかるようになる
  • EDなど性機能の問題が生じる

1型糖尿病

原因

1型糖尿病の主な原因は、膵臓でインスリンを生成するβ細胞が破壊されてインスリン分泌量が低下し、血糖値が上昇することで糖尿病を発症します。治療では、注射でインスリンを外部から補うインスリン療法が適用されます。

症状

1型糖尿病の特徴は、症状が突然現れる急性合併症を起こすことです。
主な症状は以下になります。これらの症状がさらに進行すると、呼吸困難や吐き気・おう吐などを起こすようになり、昏睡状態に陥るなど命の危険が伴う状態になることもあります。

  • 以前より喉が渇くようになる
  • 急激体重が減少する
  • 頻尿になる
  • 疲労感が強い

糖尿病の合併症

動脈硬化(脳卒中・心臓病)

糖尿病の合併症で多いのが、動脈硬化です。動脈硬化を起こすと、心臓疾患や脳卒中を誘発する可能性が高まります。特に、食事後は血糖値が急激に上昇し、動脈硬化を進行させてしまうため、注意が必要です。
動脈硬化の進行を抑制するためには、糖尿病の治療だけでなく、高血圧、脂質異常症、肥満など、糖尿病に起因する数値も適切にコントロールすることが重要です。これら生活習慣病を併発すると、動脈硬化の進行は急速に加速し、心臓疾患や脳卒中の発症リスクも増大します。

糖尿病神経障害

糖尿病神経障害とは糖尿病の合併症の一つで、高血糖により手足の神経が損傷を受け、足のつま先や裏面、または手の指に痛みやしびれなどの感覚異常が生じる疾患です。これらの症状は、手袋や靴下を着用する範囲に、左右均等に現れる特徴があります。
痛みやしびれが長期化することもあれば、進行して手足の感覚が鈍くなり、足の潰瘍や壊疽を起こすこともあります。
気になる自覚症状がある場合は、早めに受診してください。

糖尿病網膜症

糖尿病網膜症とは糖尿病の合併症の一つで、高血糖により目の網膜に集中している毛細血管が徐々に破壊されていく疾患です。病状が進行すると、最終的には失明に至ります。
糖尿病網膜症は自覚症状がなく、気づかないうちに進行することが多いため、早期に発見し、その後の治療や病気の進行を防止するために、最低年に1回の眼底検査を行う必要があります。

糖尿病腎症

糖尿病腎症とは糖尿病の合併症の一つで、高血糖により腎臓の毛細血管が徐々に破壊されていく疾患です。進行すると、老廃物を尿として排泄する腎臓が機能停止を起こすため、最終的には人工透析が必要となることもあります。
他の合併症と同様に、糖尿病腎症も自覚症状がほとんどないまま進行することが多いために気づきにくく、定期的な腎機能検査を行なって早期発見につなげることが必要です。


糖尿病の治療

糖尿病の治療には、①食事療法、②運動療法、③薬物治療(内服・注射)の3種類があります。糖尿病は完治できない病気のため、大切なのは適切な治療法を長期間継続し、症状を和らげることです。
長期的な目標は、血糖値を上手にコントロールすることで合併症を防ぎ、健常者と同様の生活を送れるようになることです。そのため、医療機関に適切な治療法を提供されても、患者様自身にそれらを継続する意思がなければなりません。
食事療法や運動療法は、いきなり激しいものを行うと、長期的に継続することが困難になります。最初は無理のない範囲で治療を開始し、定期的に通院しながら徐々に実践範囲を広げていくことが重要です。

治療目標とする数値

糖尿病の治療の際に、最も重要な指標がHbA1c(ヘモグロビンA1c)という検査値になります。HbA1cとは、採血時から過去1~2か月間の平均血糖値を反映する数値です。血糖値は1日の中での食事や運動、ストレスなど様々な要因の影響を受けて常に変動するため、このHbA1cが血糖コントロールを行う指標として有用になります。

食事療法

糖尿病治療の中心は血糖コントロールになりますので、食事療法は不可欠です。カロリー制限はもちろんのこと、規則正しい食生活を送ることや、食べる順番を配慮することでも、血糖値は改善します。
以下は食事療法のポイントになります。

適正なエネルギー量の食事を心がける

1日に必要なエネルギー量は、年齢、身長・体重、性別、生活習慣・仕事内容などによって異なります。自身の適正なエネルギー量を把握し、医師の指示に従って適切な食事習慣を付けることが大切です。
糖尿病の方は過食傾向があるため、食事は腹八分目を意識しましょう。1日の摂取エネルギー量が適正かどうかは、体重の増減を見ることで判断できます。
なお、1日のエネルギー量の目安は下記の計算式で算出します。これら数値を元に、問診などを行なった主治医が総合的に判断して決定します。

エネルギー摂取量(kcal)=身体活動量(kcal)×標準体重(kg)
※標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
※身体活動量の目安は下記参照

  • デスクワークや軽労作が中心の仕事、主婦の方など:25~30kcal
  • 立ち仕事が多い仕事の方など:30~35kcal
  • 力仕事が多い仕事の方など:35kcal~

1日3食、規則正しい食事を心がける

通常、食事をすれば血糖値は上がりますが、1日1回や2回しか食事を摂らない、不規則な時間に食事を摂るなど、食事習慣に乱れがあると血糖値の向上も不規則になり、膵臓に負担がかかって糖尿病を進行させてしまいます。
できるだけ規則正しく、1日3食均等に食事を摂ることを心がけましょう。また、糖尿病患者には早食いやドカ食いの傾向が多くみられるため、食事はゆっくりよく噛んで食べるよう心がけることも大切です。ゆっくり食事をすると、血糖値の向上も緩やかになることが報告されている一方で、早食いは肥満や糖尿病のリスクを高めることが報告されており、注意が必要です。

栄養バランスに気をつけましょう

糖尿病患者には、食事の栄養バランスが偏っていることが多い傾向があります。食事は主食・主菜・副菜の構成で、バランス良く栄養を摂ることが大切です。
また、糖尿病の食事療法では、炭水化物と糖質の制限が大変有効です。下記は、食事における三大栄養素の理想的な摂取比率(%エネルギー)になります。

炭水化物:50~60%
タンパク質:15~20%
脂質:20~25%

ただし、糖尿病の治療薬として血糖値を低下させるものを服用・投与していると、急激な炭水化物、糖質制限を行うことで逆に低血糖状態となって意識が朦朧とするなど、危険な状態を引き起こす可能性があります。食事制限は医師と十分に相談した上で行うようにしましょう。
また、食べる順番に気を配ることも重要です。海藻やキノコ、野菜など食物繊維が多く含まれていて消化に時間がかかるものを先に食べるようにし、血糖値を上げやすい米やパン、麺類などを後に食べるようにすると、食後の血糖値が上がりにくくなります。

運動療法

食事療法と並んで、糖尿病治療の基本は運動療法となります。
特に食後の運動は、食事で摂取したブドウ糖や脂肪酸が積極的に利用され、効果的に血糖値が下げます。
運動には、短距離走や筋トレ(レジスタンス運動)といった無酸素運動と、ウォーキングやジョギング、水泳といった有酸素運動があります。一般的に糖尿病の運動療法に適しているのは有酸素運動と言われていますが、筋トレも同時に行うと、より効果的にブドウ糖や脂肪酸の利用を促します。

効果的な有酸素運動

運動量は、週3回、1回につき20分〜40分程度が理想的と言われています。
運動療法で最も重要なのは継続することのため、無理なく楽しく続けられる運動習慣を上手に生活の中に取り入れましょう。
お勧めの有酸素運動は以下となります。

  • ウォーキング
  • ジョギング
  • 自転車
  • ラジオ体操
  • 水泳

また、私生活の中であまり運動時間を確保できない場合は、階段の上り下りや掃除機・雑巾掛け、風呂掃除、買い物などでも、軽い運動となります。最初からハードな運動を取り入れてしまうと、挫折したり、けがをする可能性もありますので、当院では患者様の体の状態や生活スタイル、スポーツ歴、持病の有無など様々な要素を考慮して、楽しく継続できる運動メニューを提案していきます。ぜひお気軽にご相談ください。

運動療法の注意点

運動は、正しい方法で行わないと逆効果を招くこともありますので注意が必要です。例えばウォーキングでは、間違った方法で行ってしまうと、かえって血糖値が上がって糖尿病を悪化させたり、心臓や血管に負担をかけて心筋梗塞を起こす恐れもあります。また、むやみにハードな運動をすることも、かえって逆効果になることもありますし、患者様の症状によっては運動の禁止や運動制限が必要なこともあります。
運動を開始する際には、事前に医師の指導を受けるようにしましょう。
下記は、運動療法を行う際の注意点や意識すべき点になります。

  • 準備運動・整理運動は必ず行いましょう。
  • 最初は軽い運動からはじめるとにし、徐々に運動量を増やしましょう。
  • その日の体調に合わせて、無理のない範囲で運動しましょう。
  • 楽しく継続できる運動を選びましょう。
  • 適宜、運動前後の血糖値や尿糖を測りましょう。